言論の自由とマスコミ統制・自粛・忖度 – 李鋼哲

李鋼哲 ・ 一 般 社 団 法 人 東北亜 未 来 構 想 研 究 所 所 長

最近、新型コロナ禍の中で言論の自由とマスコミ統制問題がクローズアップされている。 共同通信によると、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)は 2020 年 4 月 21 日、 2020 年の世界各国の報道自由度ランキングを発表した。対象の 180 カ国・地域のうち、日本は前年から 1 つ順位を上げ 66 位となったが、メディアの編集方針が経済的利益に左右されると改めて指摘された、 と報道された。新型コロナウイルスの大流行に絡み、オルバン政権が強権的な姿勢を強めるハンガリーは 順位を 2 つ下げ 89 位。情報統制を敷く中国は 177 位のままだった。感染者はいないと主張する北朝鮮は 179 位から再び最下位へ 1 つ落ちた。1 位は 4 年連続でノルウェーフィンランド、デンマークがそれに続 く。米国の順位は 48 位から 45 位に上がったという。

以上のランキングと関連して言論の自由が各国でどのように保証されているのか、または統制されてい るのか、筆者の関心はそこにある。

そもそも、現代のほとんどの国家では憲法により「言論の自由」が保証されている。自由度が一番低い共 産党の独裁国家である北朝鮮や中国でも憲法では「言論の自由」や「出版の自由」、「集会の自由」などが 保証されているはずだが、実態は甚だ「違憲」状態ではないだろうか?しかし、権力が憲法を踏みにじる ことができる権力構造の国であるため、「違憲状態」をチェックできるはずがない。

だからといって民主主義諸国ではどうであろうか?日本は先進国であり、民主主義国とは言え「言論の自 由」が保証されているとは言い切れない。筆者はゼミ生に課題を出して日本の「報道の自由度」を調べさ せた結果、66 番目であることが分かった。ただし、調べる前に何人かの学生からは「先生、ランキング は後ろから数えた方が早いんじゃないですか?」と冗談めいて言ってきたので、ちょっとびっくりした。 普段は新聞とかあまり読んでいない若い学生でさえそう感じるのだから。

最近、コロナ禍に関する情報に対しても民衆からの疑心暗鬼の声が聞こえる。ある事件をきっかけの筆者 はそのような不信感には裏付けがあると確信した。先月、北陸大学の隣の金沢大学(国立大学)の某准教 授がコロナ禍で死亡しと、本大学のある職員から道ばたで話を聞いた。「えー、そんなこともあるの?」 とびっくりし、すぐインターネットで調べてみたら、このような記事が見つかった。42 歳の若い教員で、 11 月中旬ころに体調を崩し病院でインフルエンザと診断され、薬をもらって自宅療養していた。熱は多 少下がったが治らなかったので、保健所に電話して PCR 検査を 2 度、申し出たが、医師の診断なしでは 検査を受けられないと、同じ回答を得たという。単身赴任だったので、奥さんが SNS で連絡しても返事が なく、大学の職員に連絡しご確認を依頼したら、死亡していることが見つかったという。もともと喘息が あったが、死亡後の PCR 検査で新型コロナと判定されたという。

このような事件は重要な報道の種になるはずだ。ところが、新聞にもテレビにもほとんど報道されず、事 件発生 10 日後に北陸中日新聞に次のような短い記事が載っていただけであった。
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【2020 年 12 月 5 日:北陸中日新聞】 インフルエンザとの同時流行に備え、石川県内では先月、新型コロナウイルスと双方の検査に対応できる

指定医療機関が 180 カ所まで拡充されていた。先月 26 日の死亡確認後に新型コロナ感染が分かった金沢 大准教授の高橋広夫さん=享年 42=は、整備されたはずの新たな体制の中で、検査を受けられなかった。 ———— 全国的には同じ系列の東京新聞に掲載されているものの、これだけでは、地元の多くの人にさえ知らされ ていない。大きく報道されなかったのは大学側の隠蔽なのか、行政側の忖度なのか、その裏のことは知る すべがない。このような事件はマスコミが取り上げ、行政側に対して責任を追及するのが民主主義国家の メディアではなかろうか?同じような隠し事や過小報告が他の地域にもあるのではないか?知り合いの 有識者たちの話を聞くと、政府が意図的に隠しているのではないかと疑心暗鬼だ。報道の自由が制限され ているのか、あるいはメディア側が自粛や忖度をしているのか、それとも両方なのか?報道の自由度ラン キングが 66 番目の実態が実証できる一つの事例である。

では、報道の自由度が 45 番目のアメリカはどうだろうか?今度の大統領選挙を通じて、筆者の民主主義 に対する信奉は完全に崩れてしまった。筆者は多言語の優位を生かして、今度の選挙戦に深い関心を持っ て YouTube などに頼り、台湾のメディア、韓国のメディア、アメリカの華人系メディアなどを通じて、一 般の主流メディアでは取り上げていない「裏の情報」を毎日のように目の当たりにして、選挙過程の実態 が客観的に報道されていないことにがっかりした。

結論的に言うとアメリカの民主主義はもう崩壊している。なぜなら主流メディアは真実の一面しか報道 しないからだ。「不正選挙」で「権力がもぎ取られている」ことには目をつむっており、エスタブリッシ ュメント勢力がアメリカ憲法や民主主義を踏みにじることについては、ほとんど報道されていない。SNS やネットメディアは政治的に主張が違う人々のメディアへのアクセスを封殺、ツイッターがトランプ大 統領を封殺したのが典型的で、世界最大の民主主義国家の大統領がメディアの自主判断によって発言が 封印されるという前代未聞の事態が発生しているのだ。ツイッターだけではない、FACEBOOK など他の主 流ソーシャルメディアは、自分たちの判断基準(ファイクト・チェック)に則って国民の声を封殺してお り、これは国家権力ではないメディアの言語道断であろう。メディアが偏向の報道しかしないとき、国民 は政治判断の材料としての真実を手にすることができず、そうなったら民主主義の実行手段である選挙 の公正性・公平性はゆがんでしまい、民主主義はもはや崩壊されたと言っても過言ではないだろう。

公正、公平に真実を国民に知らせる使命を背負っているはずのメディア(筆者の価値判断基準で)が中立 性を失い、政治に介入する時、公正、公平、自由な報道はもはや望めないのではないか?筆者が信奉し追 求してきた民主主義の価値観、哲学や理念はもはや心の中で崩れていくような気がしてたまらない。筆者 は今後独裁政権を批判する根拠を失い兼ねない。

独裁政権では、メディアが厳しくコントロールされていることは誰もがわかっている事実。しかし、民主 主義国家では言論統制は「論外」だと思われる民衆が多いのでは?現実的にはいずれの場合でも、国民が 真実を知る権利を奪われている点では、「五十歩百歩」ではなかろうか?独裁国家の「リーダー」や「知 性人」は今度のアメリカ選挙戦を見て、民主主義総本山の米国をあざ笑いしている。「ほら、やはり民主 主義も偽善ではないか?言論の自由も嘘ではないか?」、「やはり我々の体制が優越だ」と。かれらは昨年 の新型コロナ禍への対応についても「制度的優越性」を強調する。

だからと言って、言論の自由を無慈悲に弾圧する独裁政権が自分たちを正当化できるとは到底思えない。 いつかは国民から見捨てられるに違いない。かの国は主権在民の「人民共和国」であり、封建王朝ではな いのだから。かつては「無産階級(プロレタリア)の独裁」と掲げて百姓のために造った政権は、今や「有 産階級(ブルジョア)とエリート階級の独裁」に変質されたように思われてならない。

どこの国でも、いつの時代でも、国民の民意をくみ取り、真に国民のための政治を行わない政権は安定的 で長続きができないと筆者は考えている。中国の古典にも「水能載舟,亦能覆舟」《荀子.哀公》という名 言がある。その意味は、為政者は船の如く、民は水の如し;水は船を乗せて安全に航行することもできる が、船を倒して沈没させることもできる。為政者に対する戒めの諺である。