李鋼哲:台湾、コロナ禍の中の優等生(1)



新型コロナ禍のため、今年 8 月予定の渥美国際交流財団主催の「アジア未来会議」(AFC)は次年度に延期せざるをえなくなった。ところで、台湾のコロナ禍の状況はどうなのか?台湾は一体どんなところなのか?知りたい方が大勢いると思って、このエッセイを執筆することになった。
 筆者は台湾に 2 回訪れたことがある。第 1 回目は 2000 年 8 月、東アジア総合研究所(一般財団法人、東京)が主催する国際シンポジウムを台北で開催したが、当時事務局長(アルバイト)を務めていた。当時は中国籍だったので、台湾に行くには厳しい制限があり、ビザ申請を 1 ヶ月前に行ったが、ビザが下りるか下りないのか全く見当がつかずに待っていたが、幸い出発 3 日前にビザが下りた。国際会議は無事に終了、翌日は新竹サイエンスパーク見学に行ったが、強い台風にあって、ほとんど見学できずに戻ってきた。3 日目は日本からの参加者(故金森久雄(日本経済研究センター顧問)先生を始め有名な学者が多い)一行約30名は李登輝元総統のオフィスを訪れ、2時間くらい歓談したのが一番印象に残る。
 その後、2016 年 3 月に、高雄市にある文藻外語大学に招待されて「ワンアジア財団」講義を行ってきた。この時は日本国籍になっていたので、ビザも要らず、小松空港から台北の桃園国際空港までの直行便を利用。家族同伴で 5 日の日程、高雄と台北の見学がゆっくりできた。高雄港の見学で初めて「高雄」地名の由来を分かった。この町は日本統治時代には「打狗」(タコウ、犬を打つ)という町だったが、その読み方が日本人には「たかお」という発音に似ていたので、この名称に「高雄」に変更したという逸話を聞いて、なるほどーと、頭でうなずいた。その他にもいろいろ見物したが、台北では国父記念館を訪れ、「中華民国」の歴史と国父孫文についていろいろ勉強になった。
話を本題に戻して、台湾のコロナ禍事情はどうなんだろう?コロナ禍対策で世界一番優等生だということはニュースなどでも知られているが、その実態はどうなのか?
  月 30 日の日本経済新聞の報道によると、台湾の衛生福利部(厚生省に相当)中央感染症指揮センターは、30 日の発表で新型コロナウイルスに感染して 80 代の女性が 29 日に死亡したことを明らかにしたが、死亡者が出るのは 2020 年 5 月以来、約 8 カ月ぶり。台湾は、新型コロナの感染拡大を長く抑えていたが、21 年 1 月に入って台湾北部の桃園市の病院で院内感染によるクラスター(感染者集団)が発生した。新型コロナの治療を担当した医師や看護師、その家族が次々と感染し、これまでに 19 人の感染が確認されている。死亡した 80 代の女性もこのうちの一人だった。台湾では、2 月 10 日から 16 日まで春節の大型連休を迎える。帰省など人の往来が増える時期と重なり、当局の警戒感は一段と強まってきた。台湾の感染者は累計わずか 909 人、死者は 8 人だという。台湾では如何にしてコロナ禍に対応したのかについては、エッセイの文字数が限られていないので、ここで紹介できない。台湾出身のラクーンにその後続編を期待しよう。
 ところで、新型コロナ禍の中で台湾経済はどうなっているのか?また台湾って一体どんなところなんだろう?
最近筆者は You-Tube を通じて、台湾の諸事情および台湾から見た国際関係、とりわけ米中両大国に挟まれた台湾の対外関係について猛勉強してきた。もちろん、「東アジア経済論」講義でも台湾と中国大陸との関係について講義するために資料をたくさん調べている。
 まず、台湾経済はコロナ禍の中で世界での優等生ということを特筆すべき。日本のメディアでは、世界のほとんどの国では経済成長がマイナスになっているコロナ禍の中で、中国の 2020 年度の経済成長率は 2.3%(この数字は本当なのか?と疑うが)であると大々的に報道されてはいるが、その他の国に関する報道は少ない。実は、台湾の GDP 成長率は 2.98%であり、台湾では 30 年ぶり初めて大陸の成長率を上回っているという。因みにベトナムの GDP 成長率は 2.91%で 2 位、「四匹の小龍」と言われるシンガポール、韓国、香港などがマイナス成長の中でも独り勝ちである。コロナ禍でもこれらの国は台湾に比べると桁違いでアル。株価は急上昇し歴史的な記録を更新、台湾ドルも急上昇し、経済は 30 年ぶりの活気を取り戻したという。
 その要因は、米中貿易摩擦により多くの台湾企業が大陸から戻ってきて、米国や東南アジアに投資が大幅に増えたこと、ファウェイに対する経済制裁のなかで、台湾の電子機器や部品への世界からの注文が増えていること、海外旅行していた台湾人が国内旅行に切り替えたので、海外に流れていたお金が台湾内部で流通したこと、等などある。
台湾からの海外旅行者(アウト・バンド)は 19 年に 1,800 万人、人口わずか 2,360 万人の 8 割に達し、世界で最高のレベルだろう。そして年間外貨流出は約 8,000 億台湾ドル(約2,5 兆日本円)だったのが、昨年は国内旅行者が延べ約 2.1 億人、資金が国内で回り、経済成長に貢献したという。21 年度の経済成長が今の勢いで伸びれば、1 人当たり GDP は初めて 3 万ドル台(2011 年に 2 万ドル台)に乗せるだろうと予測され、先進国の行列に並べられる。
 昨年度以来の新型コロナ禍の対応で台湾は世界で立派な「優等生」になり、経済成長でも模範を示している事実が、本来ならば WHO などではその経験を世界に活用すべきであると思うが、複雑で不条理な国際政治に振り回され、国連や国際社会から十分注目されないのは誠に残念なことである。
(続編あり)