INAFと渥美国際交流財団共催フォーラム・レポート 「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」 (李鋼哲)

2021年9月23日午後14:00~16:30に、第67回SGRAフォーラムが渥美財団ホールおよびオンライン(ZOOM)で開催された。テーマは、「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」で、SGRA構想アジア・チームにより企画され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の主催、一般社団法人東北亜未来構想研究所(INAF)の共催で行われ、国内外から約80名がオンラインおよびオフラインで参加し、国際連合が掲げているSDGs2030年目標実現に向けての世界各地からの報告がなされた。

フォーラムの総合司会はロスティカ・ミヤ(大東文化大学講師、SGRA研究員、構想アジア・チーム・メンバ)が務めた。冒頭はSGRAの今西淳子代表より開会の挨拶、SGRAとINAFについて紹介、共催に至った経緯について説明した。

引き続き、李鋼哲氏がモデレーターを務め、第1部は基調講演、第2部は世界各地の報告5本、そして第3部は指定討論およびパネル・ディスカッションが順次に行われ、最後に渥美国際交流財団の理事・INAF理事長の平川均先生が総括した。

基調講演は、佐渡友哲(さどとも・てつ、日本大学大学院講師/INAF理事)先生が「SDGs時代における私たちの意識改革」をテーマに行われた(渥美財団のホール)。先生は国際関係論が専門分野で、北東アジア学会会長など多くの要職を歴任した著名な学者であり、2019年12月には『SDGs時代の平和学』(単著、法律文化社)を出版された。基調講演の冒頭では、いま私たちに求められていることは、私たちが「持続可能ではない世界」に住んでいることを知り、そのことを強く意識することであり、「知る➾意識する➾考える➾行動する」というプロセスが重要であると強調した。先生はかつてゼミ生を引率してインドを始め発展途上国で現地調査を行った実体験と結果を踏まえながら、「持続可能な発展」目標と「持続可能ではない世界」の現状について明晰に分析し、SDGs達成のためには、私たちの現代文明が行き着いた大規模化・集中化・グローバル化という仕組みを見直し、循環型社会を強化することであることに気づかなければならないと訴えた。また、SDGs時代に、教員が求められていることは「持続可能な社会の創り手」を育成すること、この場合の「創り手」とは、経済成長に貢献する、いわゆるグローバル人材(人財)ではなく、いま生活しているこの社会・世界が持続不可能であることを認識し、SDGsの理念を理解して、地球的諸問題の解決へ向けて行動を起こす地球市民(global citizen)のことであると述べた。これはSGRAが設立当初から提唱する「良き地球市民」と共通しており、その中身についての重要な示唆点を提示してくれた。

休憩を挟んで第2部では、5本の現地報告がなされた。

第1報告は、「フィリピンにおけるSDGs」について、フェルディナンド・マキト・SGRA大先輩により、オンラインで行われた。フィリピンはパンデミックによりSDGsへの取り組みが大幅に妨げられており、「COVID-19で死ななくても、仕事が無くて飢え死んでしまうだろう」という生々しい現場の声を伝えた。しかし、明るい兆しも見えてきており、①国内農業の重要性の見直し、②多くの有力な民間企業が株主だけではなく社会的役割も重要であるという認識が芽生えていること、③大学は学術的な実績だけではなく、SDGsに関する評価も話題になりつつあることを取り上げたが、とっても示唆に富むお話であった。

第2報告は、「ハンガリーにおけるSDGs」というテーマで、杜世鑫(と・せきん)・INAF研究員・グローバル国際関係研究所研究員により行われた。東欧諸国の中で、ハンガリーのSDGs達成度は高く(世界で第25位)、「水資源の開発」をめぐるハンガリーと中国との協力関係を事例に取り上げ、持続可能な開発における先導的な役割を果たしていることについて紹介した。

第3報告は、「中東・北アフリカ地域におけるSDGs」をテーマに、ダルウィッシュ・ホサム・アジア研究所研究員・SGRA研究員により行われた。この地域は、過去50年間に平均寿命の延び率は他のどの地域よりも高く、保健、教育、所得という3つの人間開発指標(HDI)と生活の多様な側面で大幅に改善されていることを紹介すると同時に、2020年の「アラブ持続可能な開発報告書」によれば、この地域では、2030年までにSDGsを達成できる国はないと結論づけられている現実についても紹介し、その原因などについて分析した。

第4報告は、「朝鮮におけるSDGs」をテーマに李鋼哲氏が報告した。日本や国際社会であまり知られていない朝鮮の社会と経済開発の実態について分析し、開発途上国でありながら社会主義体制を維持する朝鮮社会の特質について認識した上でSDGsの達成度を評価する必要性を強調し、経済的な困窮の中でも国連と連携しながらSDGsの実現に向けて取り組んでいる現状について紹介した。

第5報告は、「アフリカにおけるSDGs」というテーマで、モハメド・オマル・アブディン参天製薬㈱勤務・SGRA研究員が報告した。スーダン出身のアブディン氏は、報告で2019年4月に30年間に及んだ独裁体制がやっと崩壊し、民主化に向けて暫定政府が発足したが、半年後にパンデミックが猛威を振るい始めた状況のなかで、国境封鎖やロック・ダウンを含む厳しい非常事態宣言が行われ、スーダン経済に及ぼした影響にいて紹介し、収入を保障できない貧困国における感染対策実行の難しさについて述べた。

以上の報告に対し、羽場久美子・神奈川大学教授(INAF副理事長)と三村光弘・ERINA主任研究員(INAF理事)・北東アジア学会会長による討論が行われ、引き続き基調講演者と報告者全員によるパネル・ディスカッションが行われ、SDGs実現に向けての現状およびパンデミック対策や問題点など重要な論点について白熱な議論が交わされた。

最後に、平川均先生により総括が行われた。パンデミックによる世界の現状について、豊富なデータを取り上げ説明し、ワクチン接種における先進国と開発途上国の格差問題について取り上げ、グテ―レス国連事務総長とテドロスWHO事務局長の訴えについて紹介しながら締めくくった。

■SGRAとは

公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(Sekiguchi Global Research Association)。

SGRA は、世界各国から渡日し長い留学生活を経て日本の大学院から博士号を取得した知日派外国人研究者が中心となって、個人や組織がグローバル化にたちむかうための方針や戦略をたてる時に役立つような研究、問題解決の提言を行い、その成果をフォーラム、レポート、ホームページ等の方法で、広く社会に発信しています。研究テーマごとに、多分野多国籍の研究者が研究チームを編成し、広汎な知恵とネットワークを結集して、多面的なデータから分析・考察して研究を行います。SGRA は、ある一定の専門家ではなく、広く社会全般を対象に、幅広い研究領域を包括した国際的かつ学際的な活動を狙いとしています。「良き地球市民」の実現に貢献することが SGRA の基本的な目標です。

詳細はホームページ(http://www.aisf.or.jp/sgra/)をご覧ください。