齋藤光位研究員:第1回東北アジア未来フォーラム:「東北アジアの未来構築―地政学と国際協力」の報告

第1回東北アジア未来フォーラム:

「東北アジアの未来構築―地政学と国際協力」の報告

齋藤光位(Mitsue Saito)

INAF研究員・北韓大学院大学博士課程

去る8月21日(月)、韓国のソウルにあるTV朝鮮の1階で表記のフォーラムが開催された。本フォーラムは、東北アジア地域の国際協力を通じて、地域の平和と繁栄を実現するために、日韓両国の研究機関が共同で先駆け的な役割を果たせるためのフラット・フォームを構築することを趣旨として開催された。

本フォーラムは現地での対面式とZoomを使用したハイブリッド式で進められた。出席者は、同研究所の役員(理事・顧問など)や研究員を中心に、日本側から14名の専門家が現地へ赴きフォーラムに参加した。韓国側からは財団法人・東北アジア共同体文化財団=NACCF(以下、NACCF)に所属の専門家達12名が出席し、東北アジア未来構想をテーマに研究・交流を行った。

午前中の開会式では、NACCFの理事である梁在英(Yang Zaeyong Yuhan)名誉教授が総合司会を務め、NACCF の理事長である李承律氏(Lee Seungryul)が「最近、国家情勢は米中覇権競争が増幅しており、さらにウクライナ戦争の長期化によって国際秩序が急変し、新冷戦構図が定着化している。葛藤構造が絡み合う東北アジアの秩序を相互利益構造の平和協力共同体に転換させるためには、自国の狭い視点から抜け出し、新しい時代の流れを活用する未来意識を備える必要がある。このフォーラムが米中の覇権競争の対応に寄与できることを期待している」と開会の辞を述べ、引き続き、INAF理事兼所長の李鋼哲氏が「国家間の葛藤と矛盾は存在しているが、歴史は前例のない進歩を遂げており、新しい段階へグレード・アップされていることを我々は大事にしなければならず、十分活用できなければならない。本日は東北アジア各国の知性人たちが、一堂に集まるこの場所で、知的交流を通じて知的財産を創造するプラット・フォームを構築することが出来ると固く信じたい」と開会の辞を述べた。

その後、韓国外交協会会長・元日中韓協力事務所(TCS)初代事務総長である申鳳吉(Sin Bonggil)氏が「韓・中・日3か国の協力メカニズムを活性化しなければならない。―米中葛藤の尖鋭化と東北アジアの対応」という題で基調講演を行った。米中間の葛藤の先鋭化や北朝鮮の核など東北アジアで高まっている危機的状況の中で、既存の韓・中・日協力事務局の機能を強化し、協力の諸メカニズムを最大限に活性化させ、韓・中・日の3か国首脳会議を早急に開催し、米中間の激しい競争緩和の役割を果たす必要がある。3か国首脳会議を定期的に開催し、3カ国間の安全保障問題を含め、経済・通商などあらゆる関心事について話し合う機会にし、東北アジアに緊張緩和と新たな活力の機会にする必要があると述べた。

次に、同研究所の副理事長である羽場久美子青山学院大学名誉教授が「日中韓・沖縄、ジェジュ、平和と発展の地域協力」という題で基調講演を行った。データから読み取れる21世紀の状況について分析した後、米・西洋諸国の時代は200余年間あったが、過去2000年の間のGDPの推移を見ると、ほとんどはアジアが中心であり、再びアジアが世界の中心となる時代がきていると述べた。現在、ウクライナ戦争をきっかけに、米欧で軍備拡大が行われ、日本でもその傾向が表れている。しかし、アジアは対立するのではなく、対話や協力で平和と繁栄を志向しなければならないと強く主張した。平和と軍縮をアジアから行い、そのために、沖縄と済州島を平和のハブにして「東アジア国連」をつくり、アジアで戦争が発生しないようにする必要があると主張した。

午後からはセッションに分かれての報告が行われた。第一セッションでは「国際戦略環境の変化と東北アジアの地政学」を主題として行われた。NACCF副理事長の金在孝(Kim Zae Hyo)氏が司会を務め、第一報告では、NACCF常任理事である李良九(Lee Yanggu)が「ウクライナ戦争と変化する東北アジアの地政学」というテーマで報告した。現在、起きているウクライナ戦争の背景と本質について説明した後、今後のWorstシナリオとBestシナリオとウクライナの事態についての影響について推論し、現在起きているウクライナの事態から得られる教訓を今後、アジアの平和に如何に生かしていくのかについて述べ、ロード・マップを提示した。

第二報告では、INAF理事である三村光弘氏が「ポスト・グローバリゼーション時代における北東アジアの経済交流の姿」というテーマで報告した。米中対立の構造、ウクライナ紛争に対する北東アジア各国の反応や各国の対中政策について説明した後、現在日韓がこれまでグローバリゼーションの恩恵を受けてきたが、「経済安全保障」による政治優先の動きによって危機にさらされていることを述べた。今後、政治的要因によって対立が激化し、冷戦時代のビジネスとの類似点が複数存在するなかで、冷戦時代よりもはるかに人流、物流、通信は飛躍的に発達している。そこで、これまでのビジネス・モデルとは異なる新たなビジネス・モデルを模索することが、今後北東アジアの経済交流を行う上で必要になってくると述べた。

第三報告では、漢陽大学教授の鄭京泳(Jeong Kyongyong)氏が「新冷戦時代の東北アジア未来の経済協力方案」というテーマで報告した。米中の覇権競争、またそれに伴う東アジアの米中軍事戦略を踏まえて、東アジアの葛藤と対立構造について説明したのち、それに加えて北朝鮮の核保有の問題や台湾危機、ロシアのウクライナ侵攻によって超国家的脅威を抱え、戦略環境が急激に変化し、新しいアプローチの経済協力が求められると述べた。例として、東北アジア戦略経済協力体を創設し、変化する戦略環境に対応する経済協力法案を講じて、相互win-winな環境を構築することを解決策として挙げた。

第四報告では、INAF所長の李鋼哲氏が「米中覇権競争時代の地政学と地域協力の新しい課題」というテーマで報告した。米中が「新冷戦」時代に突入し、現在の「新冷戦」の構造と特徴と、中国の大国戦略と世界秩序へ挑戦している現在の状況について説明した。さらに中国経済の現状と展望について詳細に述べた。現在中国が抱えている構造的な問題から経済悪化していることを背景として、これが東北アジア経済にどれほどの影響を与えることになるのかについて地政学的な見解から指摘した。経済のグローバル化は後退しつつあり、ナショナリズムが改めて台頭している現状に警鐘を鳴らした。

第二セッションでは、「東北アジア国際協力の推進法案」を主題として各専門家たちが報告を行った。INAF理事の佐渡友哲氏が司会を務め、第一報告では、INAF理事の川口智彦氏が「東北アジアの平和のために―理解と対話の重要性―」という題で報告した。川口氏が北朝鮮を訪問した際に自身が持つ北朝鮮観が大きく変わった経験を通して、我々が現在北朝鮮に持つステレオ・タイプに取り付かれており、北朝鮮に対する思考が止まっていることを指摘し、外国を理解する際にまず、違いがあることを認めたうえで、さらに相手について知ろうと努力し、歩み寄ることで対話が可能となると力説した。さらに、北朝鮮という難しい国を知るための実質的な方法について述べた。

第二報告では、NACCF副理事長のキム・ジェホ(Kim Zae Hyo)氏が「越境協力モデル-ハサン国際新都市開発方案―」という題で報告した。東北アジアが米中戦略競争とウクライナ戦争による地政学的危機が深刻化し、今後は国際情勢上最も危険な時期と予測されていることを説明した。そして、東北アジアが3重(中朝ロ)に直面した「地政学的危機」を「地経学的機会」の活用と多国間協力を通じて、域内の平和と共同繁栄のための基盤構築を行うための超国境協力実行案として中朝ロの国境地域に「ハサン国際空港」を建設することで、東北アジアの新しい国際関係時代に備えた経済協力基盤を構築し、国際都市を建設することで、東北アジアの協力基盤を構築できると述べた。

第三報告では、INAF理事の陳 柏宇(Chen Boyu)氏が「台湾のナショナル・アイデンティティーと対日本と韓国の外交政策」という題で台北からzoomで報告した。台湾におけるこれまでの日本と韓国との関係を対象として、中華民国国民党と民主進歩党の指導者の言説と政策の違いについて述べた。その後、台湾のナショナル・アイデンティティーと各政権の外交方針の違いについて説明しながら、日本と韓国に関する言説の違いについて、構造的なトピック・モデル(Structural Topic Model)を行った結果のデータを使用しながら説明した。日本と韓国に対して、国民党と民進党政権は異なるアスペクトに重点を置いていることを結論に述べながら、中台関係の悪化による日本と韓国との関係を深める余地があると述べた。

第四報告では、World FTA Forum 会長であるイ・チャンウ(Lee Changwu)氏が「韓中日FTA推進方案」という題で報告した。輸出企業にとってFTAが必須条件であることを韓国のFTA締結による関税削減効果のデータを用いながら説明したのち、企業がFTAを有効活用することの重要性を説明した。そして、現在世界ではFTA生態系の戦争時代にあり、経済ブロック別に存在するFTAにどのように対応していくのかが求められているとした。今後、このような全世界の多国間FTA競争時代に突入する中で、北東アジアで、USMCA,EUなどに対応する北東アジアのFTA経済共同体を推進していき、持続的な発展ができるようにすべきと熱く述べた。

最後の閉会式では日韓両機関の代表による兵開示を述べ、今回の東北アジア未来フォーラムでの活発な議論を通して、平和のための未来構想のためのヒントを得ることが出来た会議であり、意義のある時間であったとし、今後とも定期的にこのフォーラムを開催し、日韓両国のみならず、東北アジア諸国それぞれの知識人たちの交流を通して、北東アジア未来の平和に向けて交流をしていこうという言葉で幕を降ろした。