AFC7円卓会議“東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力”の報告
齋藤 光位I・NAF研究員・北韓大学院大学博士課程(韓国)
去る8月10日(土)、バンコクのチュラーロンコーン大学で表記の会議が開催され、11名の専門家が参加した。本会議では、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が東アジア経済協力の枠組みに未だ入っていない状況の中で、今後東アジア地域協力の枠組みに参加し、総合的な経済開発をすすめることができるのかという問題意識の下、現状認識と将来的課題の整理を行い、その実現について議論された。
第一セッションでは、「北朝鮮経済の現状と開発戦略および政策」という題で議論が進められた。INAF所長李鋼哲氏が司会を務めた。
最初の問題提起として、韓国輸出入銀行・北韓開発センター研究員姜宇哲氏は「北朝鮮経済に関する多面的分析」という題で発表。北朝鮮の現状を把握するためには、韓国の推定資料、国際機関の調査資料、脱北者のインタビューなど様々な資料を多面的に分析する必要があるとし、これらを使用して経済成長、貿易、食料生産、分野データなどについて分析した。それを踏まえたうえで、今後の開発協力の示唆点を述べ、北朝鮮に対する制裁は、住民の人道的な状況を悪化させることで国際社会も再考すべきであろうと述べた。
次に、INAF常任理事・新潟県立大学北東アジア研究所教授三村光弘氏は「朝鮮民主主義人民共和国の統一、対外政策の変化と今後の開発見通し」というテーマで問題提起。大韓民国との関係に対する認識が敵対国へと変化し、一方ロシアとは両首脳が「包括的戦略パートナシップ条約」に署名したことなど、北朝鮮のここ1年での対外関係に変化に着目し北朝鮮メディアで使用される表現から、世界の多極化の進行を西側諸国とそれ以外の国々の対立の深化と捉えており、この多極化について肯定的な立場であると述べた。今後、部分的な対外開放を行う可能性があるが、その際に海外直接投資の受け入れに関して制度の大枠については変更せずに対象を絞りながら進めていくのではないかと考えられるとのべた。
指定討論では、齋藤光位、柳学洙・九州市立大学准教授、川口智彦・INAF副理事・日本大学准教授、伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員等4名が討論した。
齋藤は、北朝鮮から発表された国営企業が国家予算に動員する資金の増加率の推移に注目しながら、対朝制裁とコロナによる影響によって企業の生産活動が萎縮するなかで、平壌と地方の開発を進められる資金の見通しを立てた要因の一つとしてロシアとの関係強化が考えられると述べた。
次に柳氏は北朝鮮の経済開発戦略は一貫して「自力更生」の理念に基づいており、これを具現化するために「均等原則」、「近接原則」を推進してきたと述べた。さらに北朝鮮の経済開発方式は、ほかの国が経験してきたパターンとは異なっている点を強調した。
川口氏は経済開発の源泉として朝ロ関係の強化に伴い、対露ミサイル輸出が近年では活発化していると指摘、一次資料を使用しながら、生産されている武器を挙げながら説明した。
伊集院氏は、第一セッションの中で行われた議論の内容について、各発表者に対してそれぞれ質問を行った。
最後には、パネル・ディスカッションとフロアーとの質疑応答で、活発な議論が展開された
休憩を挟んで、第2セッションでは、「周辺諸国と北朝鮮の経済関係と開発協力の可能性」をテーマにし川口氏が司会を務めた。
最初の問題提起として李鋼哲氏は「北朝鮮の開発と日本・中国の経済支援と投資の可能性」という題で発表。朝鮮半島の安定のカギは北朝鮮の国際社会への復帰とともに経済開発であり、それは東北アジア地域諸国にとって非常に重要な課題であると強調。北朝鮮の経済開発において日本と中国は最も重要なプレーヤー。日本は国交正常化が前提ではあるが、過去の朝鮮半島に対する植民地支配の反省と経済的支援を行うべく、2002年の日朝『平壌宣言』でも取り上げられている。中国は朝鮮戦争以来、対北朝鮮経済協力の最大のプレーヤーとして現在も続いており、北朝鮮が本格的に改革・開放政策を進める場合にAIIBからの投資、中国企業からの投資はパイオニア的な役割を果たすことになると述べた。
次に伊集院氏は「東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力」という題で問題提起。東北アジア経済にデリスキングの波が広がっており、その背景は米中の戦略競争の激化で、同盟国との連携を軸に経済的強靭性の強化に注力し、先端技術管理などの経済安保政策やサプライ・チェーン協力などが柱になる分析。この地域は米中を軸とした経済安保の最前線に位置するため、分断が深まるリスクが大きく、経済面のリスク・コミュニケーションや適切な競争管理も必要になると主張した。
指定討論では、エンクバヤル・INAF副理事長・新潟県立大学教授、朱永浩・INAF理事・福島大学、金崇培・釜慶大学助教授、林泉忠・東京大学特任研究員等4名が討論した。
エンクバヤル氏は、モンゴル経済はコロナのパンデミックショックからV字回復しているが、対外貿易は中国とロシアに依存しており、鉱業の輸出に依存しているため、外的ショックに極めて脆弱であると指摘。
朱氏は、国連の対北朝鮮制裁が継続しており、コロナによって中朝経済関係は「停滞」しているが、中国にとって中・蒙・ロ経済回廊に朝鮮半島が加わることは、と東北アジア地域協力の推進に重要であり、そのためには中国東北部と北朝鮮の間の陸上輸送と日本海経由の海上輸送を結び付けるために日韓両国の関わりが不可欠であると強調した。
金氏は、北朝鮮の核・ミサイル問題に対して唯一の被爆国家として核問題政策が必要であり、さらに日朝平壌宣言への回帰を行い、日米関係において同盟国家として米国を誘導し、米朝関係の改善に向けて動く必要があると述べた。
林氏は、本円卓議のキーワードの一つである「朝鮮半島の統一」問題に着目し、台湾海峡を挟んだ両岸の統一問題との比較を試みた。まず、南北朝鮮は、長い間、互いに「民族の統一」を掲げてきたが、金正恩は2023年12月に韓国を敵対国視し、南北統一を否定した。一方、方法こそ異なるが、両岸も同じく「国家統一」を1990年代初めまで互いに掲げているにも関わらず、民主化と本土化の波を受け、台湾の方は次第に統一に対して否定的な立場を採ってきた。総じて、朝鮮半島も両岸も民族や国家の統一は、近い将来において望めないばかりか、緊張関係が続いていくだろう、と述べた。
問題提起と討論を受けて、パネル・ディスカッションとフロアーとの質疑応答で、自由闊達な議論が展開された。
最後に李所長が閉会の挨拶を行った。今回の会議は、北朝鮮の経済開発および東北アジア地域協力問題に関して関係諸国の専門家たちが、様々な角度から議論できたことは、とっても有意義な時間であったとし、我々知識人は、東北アジア地域の平和と繁栄に向けて、今後ともこういった議論を多面的に行っていこうという言葉で本円卓会議を締めくくった。